体験談2…by 手嶋直人(てしまなおと・建築家) |
18/May/2001 16:30-17:00
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大阪造形センターの建物がどこにあったか思い出しながら探す。
狭い階段を登りながら、一段おきに置かれているこの板は何だろう「蹴上をあわせるためか、片足を疲れさせるためか」等と思う。二階より上は全て板が置いてある。三階で造形センターの人とおぼしき髭を生やしたメガネのおじさんに、会釈をしながら「ギャラリーは上ですよね?」と聞くと「あ、どうぞ」と返ってきたのでそのまま上へ上がる。四階では普通に版画ものが展示してあり「どれがパオロソレリかしら」と見ていたが誰もいないので、更に上へ上がっていくとなんか芝居小屋の設営をしている。靴のまま上がってきてしまったことを詫びて、また階段を下りていく。どこだろう。
確かさっきチラシみたいのが貼ってあったからそれになんかかいてあるかも知れない。最初の階段を上がり切った曲がり角で小さい貼り紙をもう一度見ると横に矢印があり階段を下りるように描いてある。それで階段の方を見下ろすと、上になんかある。横にスイッチがある。扉がある。とにかく場所はわかった。さて、誰に言ったらいいのかわからないが、さっきのおじさんに聞いてみよう。「あの〜、ピンホールロッジを見たいんですが。」と聞くと。「あっ、はい。ここに鍵があるから、誰から聞いてきたの、あっ、はいこれ、○○さんの鍵。これで開けて、なかに幻燈機があるからロウソクを点けて見て下さい。」と言う。階段に宙づりされた箱上の部屋へ通ずる、それよりもかなり無理矢理なアプローチに手摺に捕まりながら乗っかり、私の体格の良い友人のことを思う「彼だったらこの時点で帰るだろうよ」。錠前はいくら回しても開かない、5回転くらい回してから気づく、右にばかり回してた、そういえばこんな鍵はもう何十年も触っていない。この種の鍵を生まれて初めて開ける人もいるのだろうか。とにかく左に回すと「カチッ」と音を立てて開く。次に閂でまた手こずる。私も一応建築で生計を立てているので、落ち着いて考えればわかるはず、でもよくわからないまま適当に動かして押してみるが開かないし、「閂を引き抜くのかしらん」「いや移動してどこかに固定するはず」と思い、今度は思いっきり押してみる。
扉を壊しかけながら何とか中に入るが、どうやら照明スイッチは外にしかないらしい。「とにかくロウソクがあるようなのでそれを点けてみよう」、ところが当然あるはずのマッチが無い。いや当然あるはずというのは言い過ぎか。いつもならライターを持っているのだが、一週間ほど前から喉を痛めてタバコを吸っていないので今日は持ち合わせていない。しかたないので、さっきのおじさんに「すみませんローソクに火を点けるのにライターかマッチをお借りできませんか?」と聞くと、また愛想良く「ああ、これを使って、それからローソクが無くなってたらこっちに予備のがあるから言って下さい」と言う。
まず内部の様子を確認する必要がある。電灯をつけて中に入り、状況を頭に入れる。丸い台の上に糸で固定された幻燈機らしきもの、裏蓋が開いていて横に小さな燭台が置いてある。幻燈機はレンズを左の隅に向けていてそちらには20センチ角くらいのキャンバスが壁に掛かっている。台の上にはトレーシングペーパーをホッチキスで留めた小さなメモと、名前と感想を書き留める短冊型の用紙がある。それから黒のボールペン。幻燈機の固定されたこの回転台の下にもう一つ小さなイスみたいなものの上に黒い箱がある。その中に金属製の名刺入れのようなケースが20くらい入っていてその中にトレーシングペーパーに包まれてガラス板が入っている。「これを幻燈機に差し込んで見なさい」と言っている。危なっかしく、梁型のうえの段を行ったり来たり。電気を消す。扉を閉める。扉の隙間からの光は弱く何も見えない。借りてきたライターを点けてローソクに火をともす。
5枚目くらいから、ピントを合わせられるくらい目が慣れてくる。
8枚目か9枚目、ガラス板の入っているケースを開けたときトレーシングペーパーとガラスとの摩擦音が長く連続し、砂の流れるような音がきこえドキッとする。箱の左側から順番に見ていく。順序不同なのだろうか。いや!あのメモに書かれている順番で見るのだろうか、いやそれともあのメモが本文でこれはその挿し絵か。まあいいや、結局のところイイ順番で見れた気がするし。
美しいと思ったのは以下の5作品。
「境界ということ、或いは」...................................................衛星軌道上から見た稜線
「ひと呼吸ごとに世界は反転する」..................................重ね合わされたアラベスク
「影の水/光の水」.........................................................二つの異なる形式によるロンド
「光の重さについて考えている」....................光の呼吸と反射に対する重要な仮説
「その天体/林檎の宇宙/齧っている」....................................ヤコブの階段(具象)
特に「光の重さを考える」については秀逸で、この空間でしか再現できない光が表現されている。最も透明なものの中に闇を見ることができる。*オパークな光のおもしろさよ。
途中から機械的に(甲殻類のように)ゴソゴソ動き続けている自分を思う、都会の真ん中のこんな宙ぶらりんの、暑苦しく狭い部屋でロウソクを灯し小さな映像に目を凝らしている。砂時計のくびれている部分を中から覗いているような気分。
ロウソクを吹き消し、電灯を点けて、芳名帳(?)に名前を書いて、錠をして、鍵とライターを返す。さっきのおじさんはもういなくて、お姉さんに渡す。自転車に乗る。
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*オパーク [opaque]の意味する「不透明」という語彙は、語源的には「翳らす」ということらしい。 すりガラスを通した発光、拡散を誘導する障害物の影を伴う発光体。 「オパール[opal]」のイメージに引き寄せられたのだろうか。